捨てられ仮面令嬢の純真

  ✻ ✻ ✻

「おう、レオ。優しいお兄さまに感謝しろよ?」

 無事に結婚を申し込み、公爵邸へ戻ったレオのことをマティアスはニヤニヤと出迎えた。レオは憮然とする。

「――余計なお世話、と言いたいところだけど正直に言えば助かった。個人的に申し込めばあちこちから詮索されるだろうしな。だが兄さん、話を急ぎすぎたんじゃないか?」
「そんなことなかろう? 予約しておかないと、誰かにかっさらわれても知らないぞ」

 王太子の婚約者に横恋慕など、下手したら反逆と思われかねないことだった。そんな恋を心に秘める弟レオを、マティアスは痛々しく思っていた。
 だからこそリュシアンをそそのかし、セレスの嫁ぎ先をレオにさせたのだが――何が不満なのか。

「――セレスティーヌが傷ついている」
「ん?」

 普通に「セレスティーヌ」と名を呼ぶレオに満足しながら、マティアスは続きをうながした。

「殿下の命令で、仕方なく婚約したと思われてるんだ。俺はセレスティーヌだから了承したっていうのに」
「それは――」

 ムスッとして愚痴るレオにマティアスは吹き出した。

「おまえが納得させていくしかないだろう。愛されていると信じたら心を開いてくれるさ」
「それはわかっているが――」
「おまえ、女性の扱いに慣れてないもんな」

 マティアスに笑われ、レオは苦虫をかみつぶした。
 レオは口がうまくはない。公爵家と国とを支え守ることを第一に、幼い頃から武芸に励むばかりだったからだ。
 結婚しなくてはならない立場でもなし、女性のことなど二の次に生きてきた。それがここにきて仇になるとは。まさか意中の相手と結婚できるなど思ってもいなかったのだ。

「セレスティーヌの扱い……どうすれば……」

 独りごちて悩むレオの恋路は、まだまだ前途多難のようだった。


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