捨てられ仮面令嬢の純真
  ✻ ✻ ✻

 そんなわけで男爵夫妻の誕生となる結婚式は晩夏に挙行された。質素になったのはセレスの希望によるものだ。

「仮面の花嫁など、あまり人の目にさらされたくありません」

 そう伏し目がちに訴えられてはレオは何も言えない。セレスがその傷をとても負い目に感じているのは知っているし、本人が受けとめきれないことを急ごしらえの婚約者がどうこう言っても仕方なかった。
 だが教会だけは都でいちばん大きな聖堂がリュシアンから指定された。どうやら出席するつもりだったらしいが、マティアスに制止され思いとどまったという。周囲からすれば嫌みにしか見えないということに思い至らないのかとレオはあきれ果てた。
 そんなわけで列席者はヴァリエ侯爵家とラヴォー公爵家のみ。内輪の式ということになる。大貴族である両家だが、事情が事情。それでいいのだ。

「――セレスティーヌ。とても綺麗だ」

 そっと控え室をのぞきに来た花婿は、白いドレスに身を包んだ愛おしい花嫁をながめて感無量だった。

「レオさま、いけません。のぞき見なんて」

 驚きに目を開くセレスは、それでも確かに今日の自分が気に入っていた。
 裾を長く引くドレスは総レース。つつましく首もとまでおおい、真珠が散りばめられたぜいたくな作りだ。右頬をおおう仮面もお揃いに新しく作った。
 白金の髪を透かすヴェールと相まって白い妖精がそこにいるようだとレオはほめてくれた。だがふと声を低くしささやいたレオの言葉でセレスの胸が詰まる。

「誓いの口づけのことだが――嫌じゃないか?」

 レオは心配そうだった。
 命令されて婚約し、あれよあれよと結婚に至ったセレスとレオ。会って話してはいるが手を握ったこともない。
 それにセレスは――リュシアンに心を傷つけられ男性不信気味なのではとレオは感じていた。「口づけていいのか」という問いは、「レオが嫌ではないか、恐ろしくないか」と同義なのだ。
 セレスは即答できなかった。息を吸い直して、やっと答える。

「――当然です。私はレオさまと夫婦になるんですもの」
「そうか。ありがとう」

 セレスのためらいには気づかないふりをして、レオはうなずいた。


< 22 / 144 >

この作品をシェア

pagetop