捨てられ仮面令嬢の純真
荘厳な聖堂を祭壇まで歩み、セレスは現実感のなさにふわふわしていた。
高い天井。窓から差し込む清浄な光。列席者も少なくがらんとした広い席にはそっと飾られた百合が香っている。
ここは王家の婚姻にも使われる教会だった。
あのままリュシアンと結婚することになっても、同じようにここを歩いたのだろう。だがその場合、左右の座席はいっぱいになり外側の通路まで人が立つことになっていたに違いない。花の香もきっとむせ返るほどで――。
そんな幻から引き戻されたのは、祭壇の前で待つ人を見た時だ。
レオ。
セレスと二人の時に見せてくれるやわらかな微笑みではなく、引きしまった端正な顔だった。
(――なんて頼れる姿なのかしら)
そういえばレオは腕の立つ騎士なのだと思い出す。今も騎士団の白い礼服をピシリと着こなし凛々しいことこの上なかった。差し出されたレオの腕に手を添え、セレスは安堵した。
もうセレスはリュシアンの妃になどならなくていいのだ。その役目は、家族席に座っているミレイユが担ってくれる。今日のミレイユの目には勝ち誇ったような色が踊っているけれど、それでかまわないと思えた。
「――病める時も健やかなる時も、互いを愛し、うやまい、支え合うことを誓いますか」
お決まりの司祭の言葉にも、セレスは素直に「はい」と言えた。これがリュシアン相手だったらうなずくのに意思の力が必要だったろう。
でもレオとならきっと、ともに歩んでいける――。
「それでは誓いの口づけを」
レオがそっとヴェールを上げる。右頬をおおう仮面も参列者にさらされてしまった。
セレスの翠の瞳が緊張に揺れるのがレオにはわかった。そっと頬に大きな手を添える。
軽く身をかがめたレオの顔がセレスに近づいた。反射的にセレスは目をつぶる。そして――レオの唇が軽くふれたのは何故か、仮面の上だった。