捨てられ仮面令嬢の純真
「は、はい」
静かにドアを開けたレオもガウン姿だった。寝台ではなく椅子にいて青ざめるセレスに苦笑いしたように思えた。
「セレスティーヌ……」
名を呼んで、レオは向かいに腰をおろす。いつになく表情が強ばっていた。ひとつ大きく呼吸をすると、単刀直入に切り出される。
「無理はさせたくない」
「……は、い?」
目をそらし気味なレオに、セレスは間抜けな声で応えてしまった。緊張の裏返しだ。チラリと視線を戻したレオが眉をひそめていて、セレスの心臓は凍りつきそうになる。
「やはりセレスティーヌが怯えているように思えて――俺が、怖いか」
「え……あの」
セレスはうろたえた。
怖い――といえば怖い。
でもそれはレオが、ではなかった。未知のことへの乙女の恐怖心であって。でもそんなことを口にするのすらはしたなく思え、セレスは口ごもった。
「――そうか。手荒なことをするつもりはない。今夜はゆっくり休んでくれ」
カタン。
レオは立ち上がる。そして縮こまったまま動けないセレスを置いて、そのまま出ていってしまった。
「あ――」
呼びとめることすらできないほど、セレスの声はかすれていた。
(どうしよう。どうしよう、私)
初夜の床を拒否するだなんて、そんなつもりはなかった。あまりにカチコチのセレスにあきれ、レオは嫌になってしまったのだろうか。
そうだ、いつもリュシアンにも罵倒されていた。「真面目で硬くておもしろくない女だ」と。レオにも同じように思われて――?
「や……いやよ、そんな」
細くもれた言葉は悲鳴のようだった。
セレスは失敗したのだ。リュシアンからの押しつけにもめげずに結婚してくれたレオのことを拒んでしまった。レオはきっと今ごろ後悔しているだろう。もっと楽しい女を選べばよかったと。
妹ミレイユの嘲笑が聞こえる気がした。「そんなだからお姉さまは捨てられるんだわ、本当にかわいそう」――と。
絶望したまま椅子にへたり込んでいたセレスは、しばらくの後にのろのろと独りぼっちの寝台へもぐり込んだ。
死にそうな気分だった。