捨てられ仮面令嬢の純真

 朝食後、レオはキリリと出かけていった。
 セレスに見送られ、かすかに嬉しげだったのをダニエルは見逃さない。喧嘩して険悪になっているわけではなさそうだった。だがセレスが力なく悲しげなのが気になる。
 セレスの方は一日のんびりする予定だった。今は侍女のコラリーと自室で読書でもしているはず。
 昨日は結婚式という特別な日だったのだから、休養するのも当然だ。しかも新郎と初めての夜を越えた花嫁。となれば朝食に出て来られなくても対応しようと家政婦長アネットは心づもりしていた――のだが。
 二階の主寝室を整頓して階下に降りてきたダニエルは、アネットの視線に首を横に振った。

「レオさまの部屋に、形跡はありませんでしたね」
「まあそちらも? 奥さまのお部屋もですよ」

 こそこそ報告しあったダニエルとアネットは、顔を見合わせてため息をついた。どちらの寝台にも使用した跡が慎ましくひとり分ずつ。ということは夜をともに過ごさなかったのか、あの新婚夫婦は。

「ですが、レオさまがひとりで酒を飲んだ痕跡はあって」
「はあ? 何してるんです旦那さまは」
「ヤケ酒でしょうな」

 ううむ。二人でがっくりうなだれてしまう。
 ダニエルとアネットは、レオを幼いころから見守ってきている。正義感が強く誠実な男性に育ったのは嬉しいが、もしや女性に関してはからっきしなのだろうか。

「旦那さま、そんなにウブだったんですか」
「いやあ……まったく知らないなんてことはないでしょう。騎士団だってね、ゴホン、連れ立って悪所ぐらい行くものですよ」
「でも奥さまに手出しできなかったんですよねえ」

 アネットは容赦ない。女性の立場からすると、初夜に放っておかれたセレスが傷ついていないか心配になってしまうのだった。ダニエルは苦笑してなだめた。

「まだ一晩です。奥さまがお疲れだったから労わっただけかもしれませんし、様子をみましょう」

 夫婦で互いに気を遣いあう雰囲気はあるのだ。大問題ではあるまい、と結論づけて二人は仕事に戻った。


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