捨てられ仮面令嬢の純真

 セレスは何もすることがなく自室にいた。
 この部屋でくつろぐ初めての時間だった。慣れない館ということもあるのか、ぼんやりしてしまう。
 思えばこんなに暇な時間、これまでの人生であまりなかった。王太子の婚約者だった頃はたくさんの勉強に追われ、そのうえ茶会など社交をこなさなければならなかったから。
 婚約を破棄されてからも、すぐにレオとの婚約、そして結婚準備。むしろ忙しさが増した。
 それが一段落したのが昨日なのだった。嵐のような日々を駆け抜けた、と奇妙な感慨にふけってしまった。

「奥さま、座っているなら髪をさわってもいいですか」

 遠慮がちに申し出たのは、セレスの専属侍女となったコラリーだった。
 コラリーは、セレスの身の回りをととのえ話し相手になるのが仕事。五歳ほど年上で商家の出身だとか。世間の流行などにも詳しくて、よく気がつき明るい人物だと採用された。

「髪の癖を知らないと、きちんと結えないので。奥さまの身だしなみは私の腕の見せどころなんです。練習したいなと思ったんですけど」
「そうね。街ではどんな髪型が流行っているのか、やってみてちょうだいな」

 セレスはいつも、こめかみ部分を垂らして後ろはふんわり低く結っている。でも社交の場に出るのなら、こった髪形にするのも悪くはなかった。
 どうせ座っているだけならば、コラリーと理解を深めあう時間にするのもいいだろう。セレスはそっと仮面の紐をほどいた。
 だが外したのは、髪の上にかかっている紐だけだ。仮面そのものはそっと手で押さえている。傷跡は誰にも見せたくなかった。

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