捨てられ仮面令嬢の純真
  ✻ ✻ ✻

 だが数日しても、セレスとレオのギクシャク感は変わらなかった。つまり――同衾せずにいる、ということ。
 二人とも、相手が物言いたげなのはわかっていた。セレスは妻のつとめを果たさねばと焦っているし、レオはセレスに愛を伝えたいのだった。なのに双方どうすればいいのかわからない。
 一度逃してしまった機会をたぐり寄せる手管などレオにはなかった。どれだけ不器用なのかと自嘲してしまうレオだが、それだけ真っ直ぐな男だともいえる。
 さっさと二晩めに寝室を訪れればよかったのだろう。しかしそこでまた、セレスが恐怖だか緊張だかで口もきけなくなったら――と考えてしまったのだ。
 盗賊や敵兵が相手なら、戦いの場に置かれてもおののくことなく冷静なレオ。だがここにきて自分の弱点を発見し落ち込む。
 セレスに嫌われるのが、こんなに怖いとは。



 あまりに不甲斐ない新婚夫婦にしびれを切らし、動いたのは執事のダニエルだった。仕事から帰宅したレオが夕食前に着替えるところを狙い、男同士の話を持ち出す。

「――レオさま、子どもじゃないんですよ」

 白状された「セレスティーヌに怖がられるのが怖い」との内容に、ダニエルはあきれ顔で盛大なため息をついた。レオは憮然として黙る。

「そういう場面で奥さまが緊張なさるのは当たり前です。王妃になろうかという深窓のご令嬢だったんですから」
「……知っている」
「レオさまも家柄や血筋でいえば指折りのご令息なんですが……ダンスはお上手でもご歓談は苦手でしたね、昔から」
「だから嫌みを言うな」

 口説き文句のひとつも言えないヘタレと暗に罵倒され、レオは渋い顔だった。


< 33 / 144 >

この作品をシェア

pagetop