捨てられ仮面令嬢の純真
  ✻ ✻ ✻

 セレスがレオから手をふれられたのは、二度だけだ。結婚式の誓いの口づけの時に頬へ。そしてその後の馬車でふたたび頬を、そっと。

(……あれは、いい雰囲気だったと思うんだけど)

 思い返したセレスは空を見上げた。
 ここは館の庭だ。小さな空間だが風そよぐ木かげにベンチが置かれていて落ち着く。美しく刈り込まれた王宮の大庭園も悪くはないが、ここにいてセレスの心はなごんだ。

 馬車での空気のままレオと親しくなっていき、流れで彼に身を任せることができていたら――と考えてしまった。
 でもそれは無理な話。即・帰宅し、即・初夜というスケジュールでは仲を深める時間などない。

(緊張しすぎた私がいけないのだけど。ああ、レオさまになんて言えばいいのかわからない)

 頑張りますから抱いて下さい、とは言えない。

(レオさまは、私のことをどう思っているの? 尊重してくださるけど……やっぱり女性としては好みではないのかも)

 以前レオは、王太子妃婚約者として立派に振る舞っていたとセレスを評してくれた。
 だが、妻に迎える女としては物足りないのではないか。だから放置されている……と考えるのが正しく思えてきた。

(あれだけ男前でいらっしゃるのよ。高貴な血のお生まれだし、たくましい騎士でもある。結婚にしばられず、あちこちの恋人を渡り歩いて楽しんでいらっしゃるのでは……ならば私の存在などお飾りにすぎないの?)

 庭のベンチでくつろいで見えるセレスだが、頭の中はぐるぐるする悩みに埋めつくされていた。


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