捨てられ仮面令嬢の純真
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 王宮内馬場での騎馬訓練を終えたレオを呼びとめたのは、兄のマティアスだった。
 これまでは公爵邸に寝起きしていたレオが新居に移ったため、顔を合わせる機会が減っている。マティアスは眉尻を下げ嘆いてみせた。

「レオが家にいなくて、お兄ちゃんは寂しいよ」
「……馬鹿なことを言ってないで、用件は?」

 マティアスの言い分に冷たい視線を投げ、レオはテキパキと言った。この後は巡回任務がないので早く帰れるのだ。セレスと過ごす時間を削らないでほしい。

「なんだよレオ。そんなに奥方がいいんだ?」
「……悪いか」

 からかう兄に、レオは無表情を返した。
 セレスのことを愛しているのは片想いの頃と変わらない。だが仲が進展していないというのは言えなかった。不甲斐なくて。
 マティアスはフ、と笑って優しい目をする。弟の幸せを願っているのは真実だ。

「いいや、安心した」
「で? それだけか」
「いや、あのな……殿下とヴァリエ侯爵家次女殿の婚儀、秋のうちに行うことになる」
「……何?」

 レオはギュッと眉根を寄せた。セレスを傷つけたのは、その二人だからだ。
 しかしおかしい。先王の喪に一年服し、それから即位と成婚ではなかったか。今はまだ、突然の崩御から半年ほど。
 不審な顔のレオに、マティアスは苦笑いした。

「……どうやらデキたらしくて」
「あん?」
「ニブいな、ご懐妊だよ。それでさっさと王妃にしてしまわないとマズいんだとさ。喪を短縮することになった」
「……」

 レオは言葉もなく立ち尽くした。


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