捨てられ仮面令嬢の純真
「おかえりなさいませ」
兄と別れたレオは早めに帰宅した。迎えるセレスはいつもより軽やかな足どり。そのまま胸に飛び込んできてくれないかと、レオはうっかり期待した。もちろんそんなことは起こらず、セレスは慎ましく数歩手前で止まったのだが。
「どうした、楽しそうだなセレスティーヌ」
レオは上着をダニエルに渡しながら尋ねた。アネットも出てきて意味深に笑っている意味がわからない。
「……今日、お台所にお邪魔したのです」
「台所?」
レオは首をかしげる。恥ずかしそうに頬を染め、セレスはもじもじした。
「あの……レオさまはタルトシトロンがお好きと聞いたので」
「まさか、作ってくれたのか?」
レオは食い気味に問いかけた。セレスが作ったタルトシトロン! そんな幸せな物がこの世にあるなら腹いっぱい食べたい。
「作っただなんて……私は言われるまま混ぜていただけですけど」
「いいや、それでもいい。ぜひ食べさせてくれ」
レオが上機嫌になり、セレスも嬉しくなった。
(そんなにお好きなお菓子だったのね……なら私なんかが手を出さない方がよかったかしら)
急に出来ばえが不安になる。セレスの手を経たからこそ食べたいとレオは舞い上がっているのだが、その気持ちは愛妻には伝わらなかった。
その日の夕食は、デザートがメインディッシュのような雰囲気だった。
そわそわと嬉しそうなレオを見つめ、セレスはなんだか幸せになる。
(レオさまは私のすることを喜んでくださる。冷たくあざけり、否定することはない)
前の婚約者リュシアンと比べるのすら、レオに失礼な気がした。
レオはたぶん、セレスの心の傷が癒えるのを待ってくれているのだ。だから無理やり夜に押しかけてきたりしないだけ。
不思議とそう信じられて、セレスの心臓がキュッとなる。
(こんな人の妻になるなんて私、実はとんでもなく運がいいのでは――?)
トクン、と打ち始めた鼓動がレオの方を向く。目を輝かせタルトシトロンを口に運ぶレオがまぶしく思えた。
「うん、美味しい。料理などしてこなかったろうにセレスティーヌは天才だな!」
大げさにほめられてしまい、セレスは耳まで火照ってしまった。