捨てられ仮面令嬢の純真

「くっそ。やってられん」
「うんうん、わかるー」

 騎士団の控え室でレオが吐き捨てた本音に、仲間も賛同してくれた。が、声はひそめる。

「おおっぴらに言うのはやめとこうよ、レオ」
「……半分当事者なんで、皆に申し訳ないんだ」

 レオが愚痴った相手はウスターシュという。子爵家の三男坊で、レオと同い年。高貴な血筋で遠慮されがちなレオに平気でにこにこ懐く、のんびりした男だ。

「当事者……? あーそっか。レオって殿下の従兄だったっけ」
「……あと、妃殿下になるのは妻の妹だ」
「うっわ、そりゃあレオが悪いや。なんか奢れよ」

 あはは、と笑いながら肩に腕を掛けてくる。レオのせいなどと欠片も思っていないのが伝わる無邪気な笑顔がうらやましかった。こう陽気に人と接することができれば、女性に愛をささやくぐらい苦ではなかろう。

「ウスターシュは結婚しないのか」

 つい尋ねてしまった。友人は面くらった顔になる。

「なんだよ。レオだって春まではそんな気、まったくなかったくせに。え、俺に勧めたくなるぐらい結婚っていいもの?」
「あ、いや……」

 レオはモゴモゴ口ごもった。まだ完成形の婚姻に至っていないとバラすわけにはいかない。

 セレスはレオにやわらかな笑みを見せるようになってきた。一緒に階段を歩く時には差し出した肘に手を添えてくるし、距離は順調に縮まっている。二人が婚約者ならば、とてもうまくいっていると言えるだろう。
 だがレオとセレスはすでに夫婦なのだった。もう少しゆったりした婚約期間があれば、なんの問題もなかったかも――というのは今さらな愚痴だ。
 とはいえここまでくれば、あとは就寝前「おやすみなさい」と言われた時に、レオがグッとセレスの腰を抱き寄せ「――今夜はともに」とささやけばいい。わかっている。わかっているのに踏み切れないレオが不甲斐ないだけだ。

(……だってセレスに嫌われたら生きていけない)

 大の男がグズグズとためらって情けない。
 執事のダニエルが尻を蹴飛ばしたがっていることを、レオはよく理解していた。


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