捨てられ仮面令嬢の純真
セレスにはコラリーという強い味方がいた。でもどこの家にもそんな侍女がいるわけではない。余計な出費を強いられた者も古いドレスで我慢することになった者も、みな新王への不満をつのらせていた。
「うちの母も兄嫁もヒスってたよ」
レオに証言したのはウスターシュだ。いつものんきな騎士団員がやや引きつり笑いなのは、家の女性陣の剣幕を思い出したのだろう。
「あははは、めちゃくちゃ怖かったー。うちはあんまり家格も高くないし全員出席しなくても、って言ったら怒鳴られてさあ。社交は仕事だって」
「そりゃそうだろう」
レオも心情的にはウスターシュに賛成だ。だが貴族には貴族の為すべきことがある。
「レオは全日程出席だよね」
「むろん」
「奥方も? レオってダンスはできたんだっけ。奥方のお披露目なら見てみたいな。俺は警備だけど」
「……見せ物じゃない」
レオの声が低くなる。怒ったのではなく、物思いに沈んでしまったのだ。
(そうか、セレスティーヌと踊るんだ――)
想像しただけで浮かれそうになる。
しかし初めてのダンスならば、本番前に館で練習した方がいいのではないか。体を動かすことなのでレオもダンスは嫌いじゃないが、しばらく踊っていない。
(それに、少しでもセレスティーヌと過ごしたい)
実はこの数日、帰宅が夕食に間に合わなくてレオはしょげているのだった。式典に向け城下の取り締まりを厳しくしているので人手が必要になり、結果全員の勤務時間が延びている。
だがセレスは、レオの帰宅が遅くてもちゃんと迎えてねぎらってくれていた。「お疲れじゃありませんか」と毎日心配してくれるのだ。
(よし、寝る前に少し踊らないかと誘ってみよう)
そして雰囲気が良くなれば、そのまま――と虫のいいことを考え、レオは勢いよく館へ戻った。