捨てられ仮面令嬢の純真

「お帰りなさいませ、レオさま」

 やはり今日も夕食をひとりでいただいたセレスは、そわそわしてレオを待っていた。渡したい物があるのだ。

「ただいまセレスティーヌ。変わったことはなかったか」
「ご心配なさらないで。皆がしっかりやってくれていますから」

 そう言いながら、セレスはやや落ち着かない。喜んでもらえるかドキドキしていた。

「何か召し上がりますか?」
「いや、いい……毎日セレスティーヌをひとりにしてしまっているな」
「私よりレオさまのお体が気がかりで……」

 いつもなら、このまま引っ込んで着替えて寝てしまうレオ。二階に上がるのにセレスはついていった。レオにそっと寄りそっている。
 セレスから向けられる視線がいつもと違う。そうレオは感じた。レオはダンスに誘おうと決意して帰ってきたのだが、セレスはどうしたというのだろう。

「セレスティーヌ……」

 二階の廊下でレオは立ちどまった。

(今だ。誘うんだ。行け、俺)

 レオが息を吸い直したのと同時に、セレスも口を開いた。

「あの」
「う、いや、どうしたセレスティーヌ?」
「……レオさまに受け取っていただきたい物があるんです」
「俺に?」

 出鼻をくじかれたレオだったが、セレスからレオにというのは気になる。期待して訊き返したレオに、セレスが差し出したのはサシェだった。

「これは――」

 レオの手のひらより一回り小さい袋。やわらかいリネンを通して何やら花のような香りがする。

「よくお眠りになれるようにポプリを詰めました。レオさまがお疲れのようなので、せめて私にできることをと……」

 セレスが作ったのはラベンダーなどの花とハーブを配合した安眠ポプリのサシェだった。余計なお世話かもしれないが、連日忙しくするレオのために何かしたかい。枕もとに置き、ぐっすり眠ってほしいと思った。
 レオは手にしたサシェにそっと顔を寄せる。なんとも優しさに満ちた匂いがした。

「セレスティーヌ――」

 喜びに突き動かされたレオは腕を伸ばした。

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