捨てられ仮面令嬢の純真
「お帰りですか。ヴァリエ家の馭者を呼んできましょう」
「そんな。あなたのような方をわずらわせるのは」
「かまいません」
言葉は少ないが、あたたかい声色だった。
彼の名はレオ・ド・ラヴォー。セレスよりいくつか年上で、ラヴォー公爵家の次男だ。
第一騎士団に所属し、王宮と都を守る気鋭の武人のレオ。だが荒々しいところはまったく感じさせない。
「すぐに馬車を回させます」
「あ……」
レオはキビキビした足取りで行ってしまった。そんな雑用をするような身分の人ではないのに。
ラヴォー公爵夫人は今の国王の姉。つまりレオは陛下の甥で、リュシアンの従兄にあたる。兄である公爵家長男ともども、王位継承権すら保持する立場なのだった。
「申し訳ないわ……」
レオは騎士らしく礼を尽くしてくれただけだとわかっている。でもセレスにそんなことをしてくれなくてもいいのだ。リュシアンにないがしろにされるセレスなどには。
セレスはうつむきかけるのを必死でこらえた。そんなの淑女としてみっともない。前を向かなくては。これでもセレスの肩書は、王太子の婚約者なのだから。