捨てられ仮面令嬢の純真
ゆっくりと優雅をよそおいセレスは廊下を進む。すると馬車寄せの手前でもうレオが戻ってきた。なんて足が速いのだろう。
「まもなくです」
「ご親切にありがとうございます」
「いえ」
レオの言葉は短く、そっけない。だがリュシアンよりよっぽど優しく聞こえた。それが悲しくてセレスは力のない微笑みを浮かべる。
「……どうしました」
仮面越しなのに、セレスはよほど情けない顔をしていたのかもしれない。レオの焦げ茶の瞳が案じていた。
「いえ――」
言えない。王太子がセレスのことをうとんでいるだなんて。
そしてセレスも――リュシアンのことを愛おしく思えずにいるのだなどと、口が裂けても言ってはならないのだった。
「ああ、来ましたね」
ヴァリエ侯爵家の紋章をつけた馬車が見えて、セレスは外に出た。さりげなくエスコートしてくれるレオに軽く礼をする。
「お送りくださってありがとうございます」
「お気をつけて」
馬車に乗り込み帰っていくセレスと、見送るレオ。そして――。
紳士だったレオのまなざしが狂おしく変わった。
「セレスティーヌ……」
つぶやくのはセレスの名。
それは親しい仲でなければ呼んではならないものだ。だから本人の前で呼ぶことはない。
――たぶん、一生。