捨てられ仮面令嬢の純真
テラスから控えの広間に戻ったセレスは心をしずめようと壁際でうつむいた。その右頬はドレスと同じ緑の仮面でおおわれている。首もとにはエメラルドのチョーカーをあしらい、広く開いた襟ぐりに映えていた。
(レオさま、この姿もほめてくださった)
レオは最初から仮面などおしゃれの一部ぐらいに扱ってくれている。それがセレスの救いだった。
それにコラリーはドレスに合わせ一枚ずつ仮面を新調してくれた。だから仮面姿でも自信を持って人前に立てばいいのだ。
だが。
「――あの方、やっぱり仮面は外されないのですね」
ひそ、とする声がセレスの耳に届いてしまった。女たちのうわさ話は、こんな暇な時間がいちばん盛り上がる。
「どんな傷なのかしら」
「傷がなければ王妃になられたのでしょうに」
「それにしても妹に乗りかえるとか、陛下も……ねぇ?」
聞こえた言葉は悪意ですらなかった。ただ興味本位で見世物を評しているだけ。
彼女たちは、セレスが近づいて抗議しようものなら「悪気はありませんのに」「心配しただけですわ」と驚いてみせるだろう。そしてあとで「怒られて怖かった」と被害者ぶる。なんなら「気の強い方ね。だから陛下に捨てられるんだわ」ぐらいの陰口は覚悟しなくてはならない。
セレスは無表情に耐えた。今うかつな行動に出ればレオの名に響くし――そもそもセレスは人と戦うことに慣れていない。常に我慢して生きてきたから。
仮面の陰に隠れればいい。
そうすれば何もさとられずに済む。
仮面は傷跡だけでなくセレスの心も覆ってくれるのだった。