捨てられ仮面令嬢の純真
貴族たちはセレスのことばかりを言うわけではなかった。領地の産業について。王都の高級店のこと。話題は尽きない。
その中でドレスを新調する時間がなかったことへの不満も聞こえた。まだ公式には明かされていないミレイユの懐妊のせいだと噂になっているらしい。
だがそれらもセレスにとってはつらい話だった。妹が我がままなのは、姉セレスへの反感が根にあるのだろうから。いつの間にそんなに憎まれていたのだろう。
徐々に貴族たちは大広間に呼ばれていく。口さがない声もなくなったが――セレスは動けなかった。心が凍ってしまった。
「――セレスティーヌ!」
焦りを含んだ声に呼ばれ、壁際で微動だにできなくなっていたセレスは顔を上げた。レオが急ぎ足で戻ってくる。
「すまない、ギリギリだったな――どうした」
セレスはなるべく平静をよそおったのに、レオは一瞬で心配そうにした。顔をのぞき込まれ、セレスは泣きそうになる。レオの顔を見た安堵で。
「レオさま……」
「ひとりで心細かったのか?」
そんな子どもみたいな、といつものセレスなら気丈に振る舞っただろう。でも今はそうしたくなかった。
「――はい」
甘えた瞳でつぶやくセレスの頬を、レオは両手でそっと包んでくれた。
「もうひとりにしない――さあ、俺たちも大広間へ行こう」