捨てられ仮面令嬢の純真
 その言葉は当然レオにも聞こえていた。一瞬で氷のように冷えた目を、伏せて隠す。怒りを飲み込んだレオは、ふるえそうな妻の手を取った。

「セレスティーヌ、行こう」
「レオさま……」

 国王夫妻に続き、チラホラと男女が踊り出すフロア。レオは堂々と足を進めた。青ざめながらついてきたセレスと向き合うと、落ち着かせるように微笑んでくれる。
 でもささやいた言葉はセレスにとっては謎だった。

「やっとセレスティーヌと踊れる――夢だったんだ」
「え――?」

 ホールドした二人は足を踏み出した。
 曲の途中からでも迷いないステップがセレスをリードし、硬さをすぐに取り去る。初めて踊る二人はなぜか息がぴったりだった。セレスの唇にだんだんと笑みが浮かぶ。
 レオの足取りは明確な意思を伝えセレスを導く。軽く左手を押すだけで進む方向を示した。踊る人々のひと組をスイとよけざま――。

「――まるで仮面舞踏会じゃない?」

 嘲笑してきたのはミレイユだった。セレスの息がとまりかける。姉に言葉を投げつけると、ミレイユは尊大な笑顔で離れていった。
 ふらつきかけたセレスの手を強く握り、レオは言い聞かせた。

「誰の言葉も聞かなくていい。俺だけを見ていろ」

 ささやきに、セレスはハッと自分を取り戻す。
 そう、もうミレイユやリュシアンに何を言われようといいのだった。だってセレスにはレオがいる。恋しい人が、ここに。
 もう大丈夫。落ち着いてリードに身をゆだねながら、セレスは尋ねた。

「レオさま――さっき夢、て」

 何も怖くなくなった。レオがいるから。だからなんでも訊けた。
 レオから返されるのは熱いまなざし。

「セレスティーヌを見ていたんだ。ずっと」
「ずっと?」
「王太子妃になどならないでくれ、と願っていた」

 それは――ずいぶん前から恋していたという告白だった。
 絶句したセレスは軽やかに踊り続けながら、ただレオのことを見上げていた。


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