捨てられ仮面令嬢の純真
そんな庶民の暮らすところ、と言われたら我慢するつもりだ。貴族の奥方が出向くのは、と渋い顔をされて当然だと思う。だがレオは不思議そうにしただけだった。
「どうしてそういう場所に?」
「あの、レオさまがおっしゃいましたよね。家のない子どもたちが追い立てられていくのは忍びない、と」
「ああ……式典の前か」
「そんな人々がいると学んではおりました。でも私、実際を知らないのです」
王都に生まれ、暮らしているくせに貴族の邸と王宮以外ろくに見たことがない。それがセレスの心に引っかかっていた。
コラリーは熱狂的に縫い物をしながら楽しそうに街での暮らしぶりを話す。館の料理人たちは市場で季節の食材を探してきては調理法を自慢げに教えてくれる。そのたびにセレスは思うのだ。自分は何も知らない、と。
「でも危ないのならば他のところでかまいません」
「いや。民の暮らしにふれてみたいというなら行こう。本当の裏道には連れていけないが、普通に女や子どもが歩いている場所なら任せておけ」
「いいのですか」
「そうだな……広場には花売り娘がいるし、屋台で食べ物を売っている。井戸端では洗濯する女たちも」
街の景色を数え上げるだけでセレスの目が輝く。
これまでの不自由な生活がわかってしまい、レオは決意した。絶対にセレスを楽しませよう。それにこれは――二人の初デートだ。