捨てられ仮面令嬢の純真

 
 下町をぐるりとめぐり、住人が快活なことにセレスは安堵した。皆、貧しさに下を向いているわけではないのだ。
 ここでは生きていくために誰もがたくましく、それは人間だけではない。颯爽と走り抜ける猫の姿にセレスは歓声をあげ、レオに笑われた。

「……だって、あんなふうに走る猫なんて見たことがないんですもの」
「貴族の邸で飼われているのは、もっとでっぷりしているしな」

 猫はいろいろだ。すばしこくネズミを狩るかと思えば、愛らしく人に甘えて暮らしていたり。

「人だって……いろいろでいいのですね」

 広場へ戻りながらセレスがつぶやいた言葉の意味を、レオははかりかねた。王妃となる運命が変わった自分のことを言ったのだろうか。
 でもレオの隣にいる今の境遇を悔やんでいるようには聞こえない。すんなりとそこに立つセレスへの愛おしさがこみ上げ、レオは妻を抱きしめたくなった。

「セレスティ――」
「待ちやがれクソガキ!」

 怒声が響いたのは広場の方からだ。
 人混みから少年が飛び出してくる。何かの袋を胸に抱えていて――あれはおそらくかっぱらいだ。
 道にいた人々が捕まえようとするのをかいくぐる少年。だがセレスとレオの前にいた男にはドンとぶつかる。その勢いがよすぎて男がよろけた隙に、少年はまた駆け出した。

「あ……!」

 脇をすり抜けられてもセレスは動けなかった。どう対処すべきかわからない。しかし、

「ここにいろ!」

 言い捨てたレオが走ったのは少年と逆の方向だった。細い横道に駆け込み、消えてしまう。

「え……レオさま……?」

 セレスはおろおろするばかりだ。「ここに」と言われたのだから待つしかないが、どうしたというのか。

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