捨てられ仮面令嬢の純真
――ビルウェン王国が求めるのは、国境地域の一部割譲だった。
指定されたのは歴史的に領有国が変わりがちな地方で、たまたま今はマルロワのものになっている。隣接するビルウェン側の領主が野心的でそこを欲しがっているらしい。
(そんなものを与えては、いずれ独立を求めてややこしいことになるだろうに)
そうマティアスは思った。だがビルウェンとしても何か国内事情があるとみえる。無視できない実力派辺境派閥と、いずれ叩き潰す口実が欲しい中央。そんなところか。
ビルウェンはそこで小競り合いを起こすかもしれない、とギードは匂わせた。
平定のための派兵で王都は手薄になる。そこで発生する商人襲撃騒ぎ。王都の混乱を受けて戻らなくてはならない軍は、早々に不利な和平に応じざるを得ない。という筋書きだ。
「あなたさまが……上に立たれたあかつきには、そのまま領土割譲に調印を」
「私が、か」
やや考えるそぶりのマティアスの判断をギードは待った。王位に就いて最初にやる仕事が領土の売り渡し、というのは確かに気分がよくないだろう。だがビルウェンとしてもこれは慈善事業ではない。マティアスはうなずいた。
「仕方があるまい。だが私が――とならなければ、この話は成立しないぞ。泥沼にならんよう努力してくれ」
「かしこまりました」
マティアスとギードはがっちり握手する。証文などは残さないが、それが信用というもの。言葉すら濁しての会話だ。
こんな内容がどこかに漏れてしまったら首が飛ぶのだ。比喩ではなく、現実で。