捨てられ仮面令嬢の純真
男爵夫人を名乗る仮面の女に突然訪問された孤児院の院長たちは、バタバタあわただしく迎えてくれた。
冬を迎えても院内は寒々しい。子どもたちと話すのはちょっと、と都合が悪そうにされた。栄養状態が良くないのかと思い当たったセレスは、慈愛に満ちた微笑みを浮かべてみせた。
「当家は独立したばかりで慈善事業をまだ行っておりません。こちらでは何か不足などございませんか? どこの施設を後援していくか検討しているところですの」
「おお、そういうことでしたか」
なんの用かとビクビクしていた院長は安堵すると、この孤児院がいかに努力しているかを滔々と語り出した。
だが先ほどの様子を見るに、出資者へ報告している通りの待遇を子どもたちに提供できてはいないのだろう。セレスがしたいのはそれ以上のことなのに前途多難だ。
「……子どもたちに食べさせ眠る場所を与える以外に、できることはありませんかしら」
セレスは尋ねた。
大人になって働ける技術を持たなければ、ならず者が増えかねない。それに働いて税を納められるようになってもらわねば国も破綻するのだ。
しかし院長は笑顔で首を振る。
「手に職を、ですか。それは職人の徒弟になって覚えることでございます。希望する子どもは組合に紹介しますが……なかなか引き受けてもらえんのです」
それはおそらく、ここ出身の子どもたちが後に罪を犯した負の実績のせい。
また、子どもの方もどんな仕事をしたいかなど考える機会がないのだ。ここにいても、やらされるのは母体である教会の手伝いばかりだから。
「そうですか……貴重なお時間をさいていただき、御礼申し上げます。ためになるお話でした」
優雅に微笑んでみせたセレスは、内心がっかりして孤児院を後にした。