捨てられ仮面令嬢の純真
そこは意外と乱雑な界隈だった。貴族たちも通うというわりに敷居は低そう。劇場そのものは大きい建物で前面も広場になっているが、周辺はこじんまりした店ばかりだ。
「夜にいらっしゃるなら馬車じゃなきゃ駄目ですねー。あと、旦那さまがご一緒がいいかと」
「そ、そうね……」
コラリーは平然としているが、セレスは内心ビクビクしていた。
こんな所にレオ抜きで来てしまってよかったのだろうか。ダニエルという男手はあるが、レオに比べたら腕っぷしの面では頼れない気がする。
広場に足を踏み入れる前でセレスは立ちどまった。
「そのうちレオさまと来てみたいわね。今日はもう――」
二人をうながして戻ろうと思った時、視界に見覚えのある隊服が目に入った。騎士団のものだ。そこにいたのは。
「レオさま……?」
見間違えるはずがない。今朝も玄関から見送ったレオだった。その夫が、劇場の脇の小道を女性と話しながら出てきたのだ。
見てはいけないものを見た気がしてセレスは後ずさった。
「奥さま」
そっとダニエルがセレスの前に出た。レオに背を向け、ささやく。
「いかがいたしましょう。レオさまに声をかけますか。それともお帰りに?」
ダニエルの配慮は仕方のないことだった。あらわれた女性は慣れたふうに手を伸ばし――レオの頬をツツとなぞったのだから。