捨てられ仮面令嬢の純真
――あれは八年前。十歳のセレスティーヌは婚約者候補の一人だった。
当時は似た年ごろの令嬢・令息たちがたびたび王宮に集められていた。十三歳だったリュシアンの妃の座と、腹心の立ち位置を得るべく競っていたのだ。
あの日リュシアンは、やや考えなしの男爵家令息と庭園を走り回っていた。散策する令嬢たちが困った顔をしても、むしろおもしろがるばかり。
調子に乗った男爵家令息は隅に植えられた木に登り、リュシアンは彼の腰掛けた枝を下から見上げていた。
一緒に登るのは怖かったのか、さすがに立場をわきまえたのかはわからない。
「殿下、あぶないです」
セレスはそっと声を掛けた。男爵家令息がいる枝が細く見えたからだ。だがちょうどその時、枝がミシリと折れた。落ちてくる。
リュシアンは王太子だ。お仕えしお守りすべき人と教えられていたセレスは、落ちてくる枝とリュシアンの間に割り込む。
――そしてセレスの頬には傷が残ったのだった。
「殿下のせいで――ついた傷なのに」
誰にも言わない本音をセレスはつぶやいた。
言わない。言えない。言ってはならないのだ。
だっていずれ王に立つリュシアンへの恨みごとなど、不敬だから。