捨てられ仮面令嬢の純真
せっかく王宮を訪れたので、セレスは父と別れ歩き出した。騎士団をのぞきたかったのだ。
昔の立場のこともあり、宮殿の中は隅々まで把握している。だがレオが勤めている姿は結婚してから見ていなかった。きらびやかな廊下から外に出ると訓練場の端だ。といっても石が敷かれ回廊がめぐらされた格式高い造りで、騎士団の誇りをうかがい知れる。
「あっれー、レオの奥方だ」
詰め所の前で軽い言い方をしたのはウスターシュだった。セレスも王太子婚約者時代から見覚えはある相手。軽く一礼する。
「夫がお世話になっております」
「いえいえ、こちらこそ! レオ呼んできます?」
「手隙なのでしょうか」
「歩哨に立ってるけど、交代してくるんで。待ってて下さいね!」
「え」
さっさと行ってしまうウスターシュを、セレスは呆然と見送った。
「そんな……お手間を取らせるつもりでは……」
申し訳なくてポツリとつぶやくと、ひそやかな笑い声がした。詰め所から出てきてピシリと礼を取ってくれたのは騎士団長のフェルナン。若い団員たちを穏やかに、だが厳しくまとめるベテランに対し、セレスは敬意をこめて挨拶した。
「ごぶさたしております」
「こちらこそ……お幸せそうでよかった」
王族の一員となるはずだったセレスは、騎士団の警護対象だった。それが突然、一貴族、しかも下位に落とされた。まったくの外野ではあるが、フェルナンはセレスの身を案じてくれていたらしい。
「レオさまのおかげです」
「事がよいように進みましたな。あのウスターシュは夫君と親しくしている男です。気のいいやつなので頼りにしてやって下さい……ところで今日は何かありましたか。こんなところにおいでとは」
フェルナンに問われ、セレスは微妙な顔をした。ミレイユへ陳情に来たとは言いにくい。門前払いだったのだし。
「妃殿下のお見舞いです」
「――それは、ご苦労さまです」
フェルナンの答えには一瞬の間があった。ミレイユがセレスを傷つけたのは周知のことだ。それに騎士団の中でもミレイユの評判はよくない。愛嬌はあるが品位に欠ける、というのがフェルナンから王妃への評価だった。