捨てられ仮面令嬢の純真
「――セレス!」
ダッダッダ、と駆ける足音とともに名を呼ばれセレスは振り返る。レオが全速力で走ってきていた。目の前で急ブレーキをかけた夫をセレスは笑ってなだめた。
「レオさま。そんなにお急ぎにならなくても」
「いや……ウスターシュに迷惑をかけてしまっているし。団長、妻の相手をして下さって感謝します」
息をととのえながら礼を言うレオの肩をフェルナンはポンと叩いた。
「いいんだ。私も久しぶりにお会いできてホッとしたのでな」
ウインクして去っていくのは、夫婦で話すことがあると察したからだろう。その大人の風格にセレスは感服する。
「やはり頼れるお方ですね」
「そうだな。ところで……どうだった」
レオの視線が険しくなる。今日セレスが何をしに王宮へ来たか、レオはもちろん承知しているのだ。
だがセレスが寂しげに伏せた目で、だいたいのことは察せられた。ポツリポツリと顛末を話すセレスを抱きしめてなぐさめたいが、こんな場所なので自粛する。
セレスもミレイユから投げつけられた罵倒についてはさすがに伝えなかった。「男爵夫人にすぎない〈傷もの〉」などという言葉を聞かせたらレオが殴り込みに行きかねない。
「……そうか。義父上も頼れなかったと」
「仕方ありません。私がしたいことをミレイユに託そうとしたのがそもそも良くなかったの」
セレスが浮かべる諦めの微笑みを見て、レオの胸がズキンと痛む。その願いは王妃になっていれば采配できたはずだ。
以前ウスターシュに言われた「彼女、王妃サマになった方がよかったんじゃ」という声が脳裏によみがえり、レオは考え込んだ。セレスを男爵夫人などにとどめておくのはマルロワ王国の損失だと思う。
だがそれは、レオにはどうにもできない運命だった。