捨てられ仮面令嬢の純真
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 レオからの情報でマティアスがひっそり訪れたのは、ビルウェン商人・ギードの商会だった。マルロワ王都に出したギードの支店はビルウェン産の珍しい薬や蜂蜜を扱うとかで小ぢんまりしている。

「――どういうことだ。ビルウェンは徴税を辺境領主の恣意に任せているのか」

 お忍びとあって商人風の服に着替えたマティアスは、乱雑な応接間に通されている。ソファにドッカと座るマティアスは不機嫌を隠さなかった。貿易に被害が出るのを放置はできない――と見た目で示すためだ。

「これも例の件の前哨戦だと?」
「さようですなあ」

 ギードはのらりくらりと曖昧な笑みで応じた。マルロワ王のすげ替えは、ビルウェンの主導で行われなければならない。ギードたちの手の内をすべて明かすわけにはいかないのだ。

「民衆への注意喚起の段階でして。人的被害を出しては割譲後に禍根が残りますので。この地方はキナ臭いぞと周知しているわけでして」
「ふん。では、間もなく動くというのだな」
「ご明察」
「しかし、大規模な戦闘になってはまずいと思うのだが……」

 この期に及んで煮え切らない態度を見せるマティアスに、ギードは懇々と説いた。

「現地のベーレンツ伯はビルウェン中央に虚偽の申告をしておりまして。マルロワ側がたびたび不法を繰り返してくると」
「なんだと」
「兵を挙げるための口実を探しとるのでしょうな。ハーラルト卿は騙されたふりをして、援軍を送るので挙兵しろと指示します」
「ふむ」
「……ですが実際には王国軍は動かないんですわ。数をたのむつもりだったベーレンツ伯は攻めあぐねて、膠着状態になるという算段で」
「そうか。こちらと睨み合ったまま時間を稼ぐのだな」
「まあご安心を。ベーレンツ伯は戦巧者ではありませんよ」

 ギードはシレッとひどいことを言った。


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