からかわないでよ、千景くん。
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帰りのホームルームが終わったあと。
教室のざわめきの中、隣からものすごく強い視線を感じる。
ドキドキ、ドキドキ。
心臓が、さっきからずっと落ち着かない。
「なずな」
「…っ」
名前を呼ばれただけで、体がびくって反応する。
千景くんが、スクールバッグを枕代わりにして、私のことを見つめてる。
その目が、まっすぐで、優しくて。
うっ…かっこいい。ほんとに、ずるいくらいに。
「一緒に帰ろうよ」
その言葉に、胸がぎゅっとなる。でも、教室にはまだみんながいて——
「みんな見てる中、帰るの…?」
小声で、千景くんにだけ聞こえるように言うと、少しだけ笑って答えた。
「みんなが帰ったら。だから、なずなも一緒に寝よう」
…え。寝ようって。
その言葉で、ふと記憶がよみがえる。
熱を出して、保健室で。同じベッドで、千景くんと並んで寝た日。
あのときも、ドキドキが止まらなかった。
あぁ、だめ。
また、顔が赤くなってるのを感じる。
耳まで熱い。