からかわないでよ、千景くん。

*

*

*


帰りのホームルームが終わったあと。
教室のざわめきの中、隣からものすごく強い視線を感じる。

ドキドキ、ドキドキ。
心臓が、さっきからずっと落ち着かない。



「なずな」


「…っ」



名前を呼ばれただけで、体がびくって反応する。
千景くんが、スクールバッグを枕代わりにして、私のことを見つめてる。

その目が、まっすぐで、優しくて。
うっ…かっこいい。ほんとに、ずるいくらいに。



「一緒に帰ろうよ」



その言葉に、胸がぎゅっとなる。でも、教室にはまだみんながいて——



「みんな見てる中、帰るの…?」



小声で、千景くんにだけ聞こえるように言うと、少しだけ笑って答えた。



「みんなが帰ったら。だから、なずなも一緒に寝よう」



…え。寝ようって。
その言葉で、ふと記憶がよみがえる。

熱を出して、保健室で。同じベッドで、千景くんと並んで寝た日。
あのときも、ドキドキが止まらなかった。

あぁ、だめ。
また、顔が赤くなってるのを感じる。
耳まで熱い。


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