からかわないでよ、千景くん。



千景くん—— あの時も、私のこと好きだったのかな。

屋上の扉の前で、私が抱きしめたとき。
千景くんが、少し驚いた顔をして、それから…嬉しそうに笑った。
保健室で、膝にキスしてきたときも。おでこにそっと唇を寄せてきたときも。

全部、全部—— 私が好きだったから、してくれたの?


そんなことを考えていたら、気づけば教室にはもう誰もいなくて。

静かな放課後。
残されたのは、私と千景くんの2人きり。



「なずな、今日挙動不審だったよね。まあ、大方想像はつくけど」



千景くんが、クスクスと笑う。
その笑い声が、優しくて、ちょっと意地悪で。

…やっぱり、好き。
千景くんの声も、目も、仕草も。


「ねえ、千景くん。あの時も——私のこと、好きだった?」


言えたらいいのに。
でも、言葉にするにはまだ勇気が足りなくて。代わりに、千景くんの横顔をそっと見つめた。

その目が、私を見てる。
優しくて、まっすぐで。

まるで「好き」って言ってるみたいで—— また、顔が熱くなる。


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