からかわないでよ、千景くん。
「好き、千景くん」
勇気を振り絞って言ったその言葉。
千景くんの目が、まんまるになる。
びっくりしてる。
いつも意地悪されてばかりだから—— 今日は、私からのお返しっ。
“す”“き” って、めいっぱい大きく口を動かして伝えた。
すると、千景くんの右手が、すっと伸びてきて——
私の鼻を、つまんだ。
「んむっ…!?」
なっ、なんで!?
鼻つまむって、どういうこと!?
「余裕そうだね、なずな」
千景くんが、ゆっくりと立ち上がる。
その瞬間、空気が変わった気がした。
気づけば、私は壁際まで追いつめられていて——
あ、あれ。 なんでこんな状況に…?
「ち、千景くん…」
声が震える。でも、千景くんは余裕の表情で、私を見下ろしてくる。
「俺に意地悪したつもりだったんだろうけど、逆効果だからね」
「逆効果…?」
じりじりと、千景くんの顔が近づいてくる。
距離が、どんどん縮まっていく。心臓の音が、耳の奥で鳴り響く。