からかわないでよ、千景くん。
鼻が解放されたおかげで、ようやく息ができる。
でも——それだけじゃ、足りない。心臓が暴れて、頭がグルグルしてる。
「…っ、なずなっ…」
千景くんが、私の名前を呼ぶ。
その声が、頭の奥に響いて、体の力が抜けた。
ガクッと腰が抜けて、床にへたり込む。
「…はっ、はっ…」
やばい。
昨日よりも、もっと。
顔を上げると—— 千景くんが、私を見下ろしてる。
「…まって、」
思わず声が漏れた。
千景くんの目が、さっきまでとは違っていた。
優しさの奥に、何かを欲してるような—— そんな、熱を帯びた目。
荒い息。 色気のあるその顔。
見つめられるだけで、体が熱くなる。
だから、私は目を逸らしてしまった。
見ていたら、きっと崩れてしまう。心も、体も。
「なずな」
千景くんが、目の前にしゃがんで、私の顔を覗き込む。