からかわないでよ、千景くん。
足りないよ、千景くん。
ある日の昼休み。
教室の窓から差し込む光が、ちょっと眩しい。
志緒ちゃんと並んで、お弁当の後のお菓子タイム。
紙パックのジュースを飲みながら、志緒ちゃんが私をじーっと見てくる。
「志緒ちゃん、さっきからどうしたの?」
視線が熱い。何かついてる…?って不安になりかけたそのとき——
「いや…最近、より可愛くなったなと思って」
「ほ、ほんと?」
素直に嬉しいっ。
だって、超絶美人な志緒ちゃんに褒められるなんて。それだけで、今日一日がハッピーになる。
「元々かわいいんだけど、彼氏できたからかな」
志緒ちゃんが、ジュースを飲みながら、ぽつりとそう言った。
元々可愛いわけじゃない。
それでも、もし今ちょっとでも可愛く見えるなら—— それは、紛れもなく千景くんのおかげだと思う。
「あのね、千景くんにね、可愛いって思われたくて…最近、頑張ってるの」
今までずっと同じものばかり使ってたコスメ。
たまに色を変えてみたり、ちょっと背伸びしてみたり。
長く伸びた髪も、アレンジしてみたり。 鏡の前で、何度も練習した。
全部、千景くんに「可愛い」って思ってもらいたいから。
好きな人に見られるって、こんなにも自分を変える力があるんだ。
千景くんの目に、少しでも可愛く映りたくて。その一心で、毎日がちょっとだけキラキラしてる。