からかわないでよ、千景くん。
「いいね~私は、もうそんな気持ち忘れちゃったよ」
志緒ちゃんが、ため息をついて遠くを眺める。
その横顔が、ちょっとだけ寂しそうで。
でも、私にはわかる。
志緒ちゃん、自分じゃ気づいてないかもしれないけど—— 彼氏と会う前、必ず鏡の前でチェックしてる。
前髪の位置、リップの色、制服のシワ。全部、ちゃんと整えてから出ていく。
「でも志緒ちゃん、彼氏と会う前は必ず鏡見てチェックしてるでしょ?かわいいね」
その瞬間、志緒ちゃんの顔が真っ赤になる。
「まあ、一応?身だしなみとしてね?」
頬杖をついて、そっぽを向く志緒ちゃん。
恥ずかしそうなその仕草が、なんだかすごく可愛い。
「それより、なずな!気を付けてね?」
「う、うん?なにが?」
志緒ちゃんが、真剣な顔で私を見つめてくる。