からかわないでよ、千景くん。



今日の最後の授業は、隣のクラスとの合同体育だった。

私は運悪く片付け当番にあたってしまって、倉庫でバレーボールを片付けていた。
ボールかごのタイヤの回転が悪くて、なかなか進まない。



「うー…重い…」



かごは全然動いてくれない。タイヤがギシギシ鳴って、倉庫の静けさに響く。


千景くん、「手伝うよ」って言ってくれたのに—— 私は、なんとなく断ってしまった。
素直にお願いしておけばよかったって、少しだけ後悔。

ボールかごのタイヤは、やっぱり重くて。
手と足に力を込めて、ぐっと押し出した瞬間——

後ろから、ふわっときつめの匂いがした。


え、なに…?

私の手の横に、もうひとつの手。



「手伝うよ」



その声は、千景くんじゃなかった。
振り返ると、そこにいたのは——話したこともない、隣のクラスの男の子。


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