からかわないでよ、千景くん。
後ろから抱きしめられるような形で、ボールかごがグッと押される。
「はい、終わり」
低くて落ち着いた声。
「…あ、ありがとう…」
思わず礼を言うけど、クラッとする。
香水の香りが強くて、頭が少しぼんやりする。
それに—— 終わったはずなのに、後ろからどいてくれない。
距離が近すぎる。空気が重くなる。
「ねぇ、月城さん」
耳元で名前を呼ばれた瞬間、肩がビクッと震えた。
ドクン。
心臓が、嫌な音を立てる。
知らない男の子。話したこともない。
なのに、こんなに近くて…。
…怖い。でも、声を出せない。体が固まって、動けない。
「月城さん、前から可愛かったけど最近やばいね」
「…っ、」
やだ。
…やだ。
その言葉の響きが、胸の奥にざらっと残る。
「あの、どいてください…」
勇気を振り絞って言ったのに—— 返ってきたのは、軽い笑い混じりの声。
「手伝ってあげたのに、その態度?ひどいねー」
そっと、私の手の上に重なる彼の手。
ゾワッと鳥肌が立つ。
体が反応してしまう。怖くて、振り向くことができない。