からかわないでよ、千景くん。



心臓が、ドクンと嫌な音を立てる。

私の中の“嫌だ”が、警告を鳴らしてる。
でも、声が出ない。動けない。



「ね。一回でいいからさ、ヤらせてよ」


「…やらせてって、なにを…」


「そんなの一つしかないじゃん」



ははと気味の悪い声が耳元で聞こえて、左手が絡められる。

やだ、やだ、気持ち悪いっ。



「…っ、うっ…」



ぽろぽろと涙が零れる。自分でも止められない。
怖くて、悔しくて、どうしていいかわからなくて。



「え、泣いちゃった?泣いてる顔もかわいー」



その言葉が、耳に刺さる。


やだ。

やだっ…。

誰か助けて。ここから離れたい。この空気も、この距離も、全部いや。


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