からかわないでよ、千景くん。



「意地悪してごめんね?月城さん可愛いからさ。お願い、一回だけでいいし!」



その言葉に、体が強張る。
笑ってるのに、目が笑ってない。

違う。千景くんとは、全然違う。

意地悪されてもいいって思えるのは—— 千景くんだけ。
千景くんの言葉だけが、私の心を甘く揺らす。

千景くんにしか、可愛いって言われたくない。
千景くんの前だけしか、泣きたくない。


絡まっていた手がほどけたと思った瞬間—— 後ろから、あごを持って強引に振り向かされる。



「いっ…や!!」



ぎゅっと目を瞑って、精一杯首を横に振る。


いやだ。
絶対にいや。

心臓がバクバクして、体が震える。
声にならない声が、喉の奥で詰まる。



助けて。

千景くん。


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