からかわないでよ、千景くん。
「先生になんて言ってきたの?」
制服の袖を整えながら、そっと聞いてみる。
「いや、何も言わずに抜けてきた」
あっさりそう言う千景くん。
その無茶な感じが、なんだか千景くんらしくて—— 思わず、くすっと笑ってしまう。
「ばれたら、明日怒られるかもね」
意地悪そうに笑う千景くん。その顔が、いつもの千景くんに戻っていて、少しだけ安心する。
「えー」 と笑いながら返すと、千景くんが私の手をぎゅっと握ってくれた。
みんなより少し早い下校。
下駄箱には誰もいない。静かな夕方の空気の中で、千景くんと並んで靴を履き替える。
「家まで、送るよ」
千景くんの声は、いつも通り優しくて。でも、今の私にはその優しさが、胸にじんわり染みる。