からかわないでよ、千景くん。
千景くんがいてくれて、ほんとうによかった。
この部屋の静けさも、ホットココアの甘さも、全部が優しく感じるのは—— 千景くんが隣にいるから。
「千景くん、なんで来てくれたの?」
ぎゅっとコップを持つ手に、力が入る。
聞きたかったけど、ちょっと怖かった。でも、千景くんはすぐに答えてくれた。
「なかなか帰ってこないから、気になって」
コト、と机にそっとコップを置いて、私の肩に頭を預けてくる。
「…千景くん、ありがとう…」
ぽつりとこぼれた言葉に、千景くんが小さく息をつく。
「…また、泣いてる。ほんとに何もされてない?」
心配そうな声。
その声に、ふるふると首を横に振る。
この涙は、怖さじゃない。
痛みでもない。嬉し涙だよ。
千景くんの顔を見て、安心したの。来てくれて、嬉しかったの。