からかわないでよ、千景くん。
「なずな!階段!」
「えっ?」
気付いた時には、もう遅くて—— 足が宙に浮いた。
全てが、スローモーションに見える。
落ちる瞬間、階段の下にいた千景くんと平さんが目に入った。
あ…移動教室も一緒に行くんだ—— なんて、どうでもいいことが頭をよぎる。
衝撃に備えて、ギュッと目を瞑る。
落ちる! そう思った瞬間——
強い力で、後ろに腕を引っ張られた。
「……っ!」
体がぐっと引き戻されて、誰かの胸にぶつかる。
「あぶねっ…さすが、月城さんだわ」
上から声がして、恐る恐る目をあける。
顔をあげると—— そこには笹村くん。
私の腕を引っ張って、 そのまま抱きしめるような形に。
「……あ、これ不可抗力ね」
そう言って、すぐにバッと離れる。
「笹村、ナイス!」
志緒ちゃんは大分焦ったようで、ガミガミ注意された。
もう、2人に迷惑かけて—— なにしてるの、私。
視線を下に落とすと—— 階段の下にいた千景くんと、バチっと目が合った。
でも、 千景くんはすぐに平さんに視線を戻して、そのまま行ってしまった。
胸が、痛い。
笹村くんにお礼を言って、私たちも歩き出す。
助けてくれたのが、 千景くんだったら——
なんて、考えてしまった。
苦しい。そんなこと思っちゃう自分が、もっと苦しい。
でも、 心が求めていたのは—— やっぱり、千景くんだった。