からかわないでよ、千景くん。



「千景くん」



屋上へ続く階段のいちばん上。 鍵のかかった扉の前で、私はそっと声をかけた。

千景くんは、壁にもたれていた体を少し起こして、私を見た。



「もうご飯食べたの?早いね」



その声は、いつも通り淡々としてる。
でも、私の胸はもうバクバクだった。


(だって…気になってしょうがなかったから)


千景くんの隣に座る。

教室とは違う。もっと近い。肩が触れるくらいの距離。

扉の前の静かな空間に、私たちの呼吸だけが響いてる。

深呼吸をして、口を開く。



「千景くん、今日の朝何してたの?」



一番最初に気になっていたこと。
すれ違った女の子たちの会話。 “また振ったらしいよ”って言葉。



「あれ、なんで知ってるの?」



千景くんは、不思議そうな顔をしていた。


< 77 / 277 >

この作品をシェア

pagetop