からかわないでよ、千景くん。
「千景くん」
屋上へ続く階段のいちばん上。 鍵のかかった扉の前で、私はそっと声をかけた。
千景くんは、壁にもたれていた体を少し起こして、私を見た。
「もうご飯食べたの?早いね」
その声は、いつも通り淡々としてる。
でも、私の胸はもうバクバクだった。
(だって…気になってしょうがなかったから)
千景くんの隣に座る。
教室とは違う。もっと近い。肩が触れるくらいの距離。
扉の前の静かな空間に、私たちの呼吸だけが響いてる。
深呼吸をして、口を開く。
「千景くん、今日の朝何してたの?」
一番最初に気になっていたこと。
すれ違った女の子たちの会話。 “また振ったらしいよ”って言葉。
「あれ、なんで知ってるの?」
千景くんは、不思議そうな顔をしていた。