からかわないでよ、千景くん。
「こんなことしなくても、逃げないよ…」
私がそう言うと、千景くんは少しだけ目を細めた。
「へぇ。優しいね。 意地悪しても許してくれるんだ」
その言葉に、顔が赤くなる。
(…最近、千景くんに意地悪されても嫌じゃなくなってきてる)
むしろ、千景くんが近くにいないと寂しい。
声が聞きたくて、目が合いたくて—— そんな自分に気づいてしまった。
「ねぇ。俺のために泣いてよ。俺のせいで、泣いてるなずなをもっと見たい」
「なにっ、それ…」
「…だから、その顔。噛みつきたくなるんだって」
「……っ」
千景くん、私の反応を見て楽しんでる。
意地悪。悪魔…!
「キス、してみてもいい?」
「だっ、だめに決まってるでしょっ…!」
千景くんは、私の前髪をそっとかき分ける。
そして、おでこにチュッと軽いキス。
「へ…」
声にならない声が漏れる。