私は遠くから

帰り道と小さな出会い

夕暮れの駅前。街路灯に照らされる水たまりが、オレンジ色に揺れている。
　三年目のアルバイト、桐谷夕奈は今日も一人で帰路を歩いていた。

　階段を降りる途中、ふと視界の端に人影が映る。
　一人で歩く後輩――篠原颯真だ。バイト先ではあまり話したことがない。いつも奥手で、自分から距離を縮めるタイプではなかった。

　夕奈は一瞬迷ったけれど、思い切って声をかけた。
　「颯真くん……一人ですか？お疲れさま」

　振り返った颯真は驚いたように目を見開き、そして少しの緊張を誤魔化すように微笑んだ。
　「え、あ……はい、桐谷さん」

　歩きながら自然に話すうち、二人の距離は少しずつ縮まっていった。
　学校やバイトのこと、趣味のこと――話題は途切れることなく続き、夕奈は心地よい時間を感じていた。

　夕奈は彼の笑顔に触れた瞬間、胸の奥が少し温かくなるのを感じた。
　――この人となら、もっと自然に話せるかもしれない。

　短い帰り道の一歩一歩が、二人の距離を確かに近づけていた。