なりそこないのシンデレラ ~エリート官僚と偽りの婚約!?~
 着信の相手は結城さんで、少しだけ緊張しながら電話に出る。

「――もしもし?」

「ああ、広瀬さん。引っ越しは無事に終わりましたか?」

「はい。持ってくる物が少なかったので、あっという間に終わってしまいました」

「それはよかったです。お手伝いができず、申し訳ありません」

「いえっ、結城さんはお仕事ですし……!」

 電話口ながら、首をぶんぶんと振って恐縮する。すると、私の声が多少裏返っていたせいか、電話の向こうで、結城さんが微かに笑う気配がした。

 笑みの名残の、一秒の間合い。
 柔らかな響きと入れ替わりに、結城さんが問う。

「荷解きは、まだ残っていますか?」

「はい……段ボールがいくつか」

 私の返事を聞いた結城さんは、じゃあ、と穏やかな声で続けた。

「もうすぐ帰れそうなので、一緒に片付けましょう。デリバリーで恐縮ですが、夕食も手配しておきます」

「えっ……でも、お仕事がお忙しいんじゃ」

「僕の分は終わらせました。あとは、同僚たちが何とかします」

「すみません……」

 つい、反射で謝ってしまった。結城さんが、私を気遣って早めに仕事を切り上げてくれたのは明らかだったから。
 だけど――、

「違います、謝らないで」

 柔らかな口調でそう言った彼は、そのままの声音で続けた。

「大切な婚約者をお迎えする日です。僕が、張り切り過ぎました」

 きっと、結城さんは軽い冗談のつもりだったのに。
 彼の表情がわからないから、私は咄嗟に面食らってしまった。

「あ……あの、……ありがとうございます」

 なんて、しどろもどろに返すのが精いっぱいだった。

 結城さんは、ちいさく笑ってから、

「では、またあとで」

 挨拶を置いて電話を切った。
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