なりそこないのシンデレラ ~エリート官僚と偽りの婚約!?~
 電話を終えてから、30分ほどで結城さんが帰宅した。かちゃり、と鍵があく音が聞こえたから、玄関まで小走りで向かった。

「おかえりなさい!」

 ごく自然に、彼を出迎える挨拶が、口から飛び出た。
 すると、結城さんが少し驚いたような顔をした。その面差しを見て、私ははっとする。

「ごめんなさい……おかしかったですよね。結城さんの家なのに」

 まるで、ここが自分の家であるかのように出迎えるなんて。
 私は俯いて、情けなく眉を下げた。そうしたら、結城さんの影が、少しだけこちらへ近づいた。

「こちらこそ……すみません、驚いてしまって」

 柔らかに笑う気配のあとに、結城さんの指先が私の頬へ伸びる。
 冬の温度が染みた指先、ほんの微か、頬を掠めた。男のひととしては、なよやかな指先。こめかみを伝い、耳横の髪を梳く。

 指先は、髪を耳にかけただけですぐに離れた。たぶん、髪が少し乱れていたのだと思う。引っ越しの際に、ばたばたと動き回ったから。

 私たちの境界が触れ合ったのは、ほんの束の間。

 それでも、たった束の間に、まるで時の狭間に囚われたみたいだった。
 永遠めいた、一秒未満。

 はっと呼吸を取り戻した私に、結城さんが告げる。

「お迎えありがとうございます。――ただいま、婚約者さん」

 結城さんの動きに伴う衣擦れの音が、やけに大きく聞こえた。
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