エリート官僚と偽りの婚約 ~魔法が解けるまで、あなたと仮初の恋をします~
「……はい。では、今夜20時、ロイヤルウェストで」
――どくん、と胸の内で低い心音が響いた。
その響きに、きっと私自身が慄いて、ドアノブに触れさせていた手がふるえた。ガタン、と扉が揺れる。
「真理菜さん?」
正俊さんがこちらへやってくる足音がする。私はぎゅっとくちびるを引っ張って、笑顔でドアをひらいた。
「すみません、スマホを忘れちゃって」
向き合った彼は、ほんの少し戸惑ったような顔をした。だけどすぐにいつもの表情になって、
「ああ、ちょうど追いかけようと思っていました」
私にスマホを差し出した。
「……ありがとうございます」
私は笑顔のままスマホを受け取った。そうして、「もう行かなきゃ!」と慌てた様子を取り繕って部屋を出た。
パタパタと足音を立てながらエレベーターに乗って、そうして、エレベーターの扉が閉まった瞬間に息をふるわせる。
違うよね。大丈夫だよね。
何度も何度も、自分に言い聞かせた。
大丈夫、を呪文のように繰り返して仕事に行った。物思いを振り払うように働いたら、仕事はいつも以上に順調に進んだ。
季節が夏へと移行する時期、定時で上がったら、外はまだ明るかった。帰り支度を済ませて、ふと、バッグの中のスマホを見た。
一呼吸の間合いののち、私の手からスマホが落ちる。
床に落ちたスマホの画面に表示されたメッセージ。
失意が、手加減することなく私へと押し寄せてくる。
『真理菜ちゃん、元気にしてる〜? 私はね、好きな人とお泊まりなの。ホテルはなんとロイヤルウェスト〜!』
やっぱり、あれはお姉ちゃんだったんだ。
スマホに表示されたメッセージを見て、私は微かに笑った。さらさらと風で崩れてゆく砂のお城を、無感動に眺めているような心地だった。
――どくん、と胸の内で低い心音が響いた。
その響きに、きっと私自身が慄いて、ドアノブに触れさせていた手がふるえた。ガタン、と扉が揺れる。
「真理菜さん?」
正俊さんがこちらへやってくる足音がする。私はぎゅっとくちびるを引っ張って、笑顔でドアをひらいた。
「すみません、スマホを忘れちゃって」
向き合った彼は、ほんの少し戸惑ったような顔をした。だけどすぐにいつもの表情になって、
「ああ、ちょうど追いかけようと思っていました」
私にスマホを差し出した。
「……ありがとうございます」
私は笑顔のままスマホを受け取った。そうして、「もう行かなきゃ!」と慌てた様子を取り繕って部屋を出た。
パタパタと足音を立てながらエレベーターに乗って、そうして、エレベーターの扉が閉まった瞬間に息をふるわせる。
違うよね。大丈夫だよね。
何度も何度も、自分に言い聞かせた。
大丈夫、を呪文のように繰り返して仕事に行った。物思いを振り払うように働いたら、仕事はいつも以上に順調に進んだ。
季節が夏へと移行する時期、定時で上がったら、外はまだ明るかった。帰り支度を済ませて、ふと、バッグの中のスマホを見た。
一呼吸の間合いののち、私の手からスマホが落ちる。
床に落ちたスマホの画面に表示されたメッセージ。
失意が、手加減することなく私へと押し寄せてくる。
『真理菜ちゃん、元気にしてる〜? 私はね、好きな人とお泊まりなの。ホテルはなんとロイヤルウェスト〜!』
やっぱり、あれはお姉ちゃんだったんだ。
スマホに表示されたメッセージを見て、私は微かに笑った。さらさらと風で崩れてゆく砂のお城を、無感動に眺めているような心地だった。