エリート官僚と偽りの婚約 ~魔法が解けるまで、あなたと仮初の恋をします~
 芙美子さんとお姉ちゃんは、「ごめんなさい」と私に言った。そうして、家の権利書と売買契約書を書留で送ると約束してくれた。

 正俊さんと私は、ホテルを後にした。夜色の街を歩きながら、どちらからともなく手を繋いだ。

「ごめん。不安にさせたよね」

 正俊さんは最初にそう言った。お姉ちゃんと一緒にいたこと、電話の内容。不安にならなかったと言ったら嘘になる。――でも。

「信じていました」

 足を止めて、正俊さんの目を見てそう言った。
 あなたと過ごした日々が優しかったから、私は、あなたの愛が本当だと信じられた。

 正俊さんは、面食らったような顔をした。そして、眩しいものを見つめるように少しだけ目を細めた。
 繋いでいた手の、指先と指先が深く絡まる。

「あんまり、ああいうところを見られたくなくて」

 ああいうところ? と首を傾げると、正俊さんが気まずそうな顔で続ける。

「さっきの俺、怖かっただろうから」

 芙美子さんとお姉ちゃんを追い詰める間合い。不敵な微笑み。

「……ちょっとだけ、神楽坂さんみたいでした」

「えっ」

 正俊さんがショックを受けた顔をする。

「さすがに、神楽坂ほど悪どい話し方はしてないと思ってたんだけど……」

「そうなんですね?」

 疑問形で返したら、正俊さんはさらにショックを受けた顔をした。だけどすぐに、はたと気づいた顔をして私を見る。

「神楽坂に、何か言われた?」

 私を案じる眼差しに対して、安心してもらえるように笑う。

「大丈夫です。分かり合いました」

「……神楽坂と?」

「はい!」

 元気よく頷いたら、正俊さんが目を丸くする。そうして、「真理菜さんにはやっぱり敵わないな」と言って、彼は笑った。
 私たちはきらめく夜景を歩いて、私たちが暮らすマンションへ戻った。
< 109 / 117 >

この作品をシェア

pagetop