なりそこないのシンデレラ ~エリート官僚と偽りの婚約!?~
 ――ただいま、婚約者さん。

 そう囁かれた瞬間、頬にぱっと熱が集まったのがわかった。きっと、私の顔は真っ赤だった。

 結城さんは、からかうような眼差しで少しだけ笑ったあと、

「夕食の前に、ある程度片付けましょうか」

 いつも通りの態度で、奥のリビングへと向かった。

「は……はい!」

 少し上擦った声で返事をして、私も奥へ向かった。ぱたぱた、とふわふわのスリッパの足音が鳴る。

 結城さんは、ベージュのコートとチャコールグレーのジャケット脱ぐと、それらを簡単に畳んで、ソファの背もたれへ掛けた。そのまま、無造作な手つきでネクタイを緩める。

 頬に触れられたとき、結城さんの指をなよやかだと思った。
 だけど、ネクタイを緩めるときに手の甲に浮かんだ骨っぽい筋、それは明確に男のひとのもので、私は思わず目を逸らした。
 熱の引かない頬をそっと手で押さえると、

「広瀬さん」

 と、結城さんに呼ばれた。

「はい!」

 せめて勢いをつけて返事をする。段ボールの前で膝を突いた結城さんは、

「これは、僕が開けても構わないものですか」

 ひとつひとつ、律儀に確認しながら荷解きを手伝ってくれる。

「すみません……! お仕事で疲れているのに」

 私は恐縮するけれど、
「二人でやったほうが早いでしょう?」

 結城さんは気軽に笑いながら、てきぱきと荷物を片付けてくる。
 そうこうしているうちに、結城さんが手配してくれたデリバリーがやってきて、荷解きはいったん休憩となった。
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