なりそこないのシンデレラ ~エリート官僚と偽りの婚約!?~
 結城さんのかたちの影が、私の眼差しに触れた。
 それと同時に、結城さんが私の手を取る。

 ――まるで、お姫様の手の甲にキスする王子様みたいに。

 私の手をそっと持ち上げて、結城さんが囁く。

「それなら、夜を共にしてくださいますか?」

 穏やかな眼差しに覗く、艶めいた色合い。
 視線が絡み合った瞬間、私ははっと息を呑む。
 世界の手触りがひりついて、夜が途端に熱を帯びる。

「……あ、」

 くちびるから、言葉未満の音声が転び出た。――その一秒後、

「冗談です」

 結城さんが、眼差しの色合いを穏和にする。

 とん、と踵から半歩後退れば、捕まっていた手が解放された。
 あくまでも紳士的に私の肩へ手を添えて、私の体勢が整うのを手伝ってから、結城さんは私と距離を取る。

「怖がらせてすみません」

 穏やかな声音で、丁重に謝罪を述べた結城さんは、そのままの声で続ける。

「僕たちの婚約は、契約上のものです。分別はあるので、どうか安心して」

 カチ、と響いた時計の秒針。
 夜の足音が、ひとつ深みへ。
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