なりそこないのシンデレラ ~エリート官僚と偽りの婚約!?~

 ――たぶん、わざとだ。

 広いバスルームで、温かなシャワーを浴びながら思う。

 私を翻弄するような問いかけをしたこと。どちらがソファで寝るかという押し問答を終わらせて、私が遠慮なくベッドを使えるように。

 結城さんは、そういう気遣いが丁寧なひとのような気がする。

 結城さんとは、ほんの1年間、一緒に働いただけ。しかも、副館長の結城さんと非常勤職員の私とでは、大きな接点があるわけではなかった。

 それでも、主な利用者である学生さんに接するときも、私たち職員に接するときも、結城さんはいつも応対が丁寧だった。どんなに忙しそうなときでも、私たちが声をかければ、必ず自分の業務の手を止めて、穏やかに話を聞いてくれた。だから結城さんは、若手や中堅だけでなく、幹部職員からも信頼されていた。館長を始めとした役職付きの面々は、「文部科学省の若いエリート様」が出向してくることに対して、もともと難色を示していたのに。

 結城さんの最終出勤日に、「今日で、結城くんの出向も終わりかあ」とひどく残念そうにしていた館長を思い出しながら、レバーをひねって、シャワーを止める。手のひらで髪を軽く絞ってから、ガラスの扉をあけて、バスルームを出た。
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